ソーシャルネットワークにおける誤報の伝搬

たまには真面目な話。他と毛色が違うのでウザかったらスルーしてくださいまし。。
客先打ち合わせに行く前に次の文献見てました。まさかその客先で地震にあって、その後文献の内容が現在進行形で動くとは夢にも思わない。

WWW2011 / Limiting the Spread of Misinformation in Social Networks
Ceren Budak, Divyakant Agrawal and Amr El Abbadi

この文献は、Twitterなどのソーシャルネットワーク上において誤報が拡散しやすいこと、およびその誤報を防ぐための技術的な解決案を提示したものです(解決案については省略)
序文抄訳すると次の通り:

  • ソーシャルネットワークは、非常に素早くニュースを拡散できるというメリットがあり、そのスピードは一般のマスメディアも凌駕することがある。
    • マイケルジャクソンの死の情報は、マスメディアよりも早く広まった。
    • Facebookにおけるグループ・イベントのページを利用した何千人規模のデモ活動をおこすなどの、集団としての目的を達成するための役割も果たす。
  • メリットの一方で、誤報により混乱を引き起こすこともある。
    • アメリカのフォートフッド基地で起きた、兵士による銃乱射事件では、女性兵士が犯人の位置などを誤って伝え、それをメディアが真実として取り上げた。
    • メキシコから広まった豚インフルエンザの際には「メキシコで死体が山積みになっている」「豚を食べると感染する」などの誤報が広まった。
  • ソーシャルネットワークは、今日多くの人にとっての主要なニュースの情報源となっているが、そのような問題があるために、信頼できる情報源であるとは考えられていない。
  • ソーシャルネットワークが重要な情報を伝播させるための、信頼のおけるプラットフォームとして機能するには、誤報の影響を制限するツールが必要である

(冒頭抄訳ここまで)

論文が指摘するようにオンライン上のソーシャルネットワークでは、情報が大変拡散しやすい傾向があります。その理由は、メールやTwitterでの情報のやり取りでは、文字通りの「口コミ」の場合に存在する物理的な距離を、簡単に越えられることにあります。また、数回程度のメール転送・RTでも、とても縁の遠い人に情報が伝播する「スモールワールド」と呼ばれる性質があり、あっという間に情報が拡散します。

近年これらのネットワークの性質は盛んに研究されていますが、物理的な距離制約のあるネットワークよりも、情報がずっと拡散することが期待されています。むしろ最近ではこれを逆手にとってマーケティングに生かそうとする人たちもいます。

日本における「ソーシャルネットワーク上の誤報の伝達」の事例としては、昨年2010年3月26日に発生した原宿での殺到騒動が挙げられます。「原宿にHey Say Jumpが来る」という誤った情報が広まり、人が殺到して救急車が来る騒ぎとなりました。
http://bit.ly/ahU1oP

対象者は中学〜高校生と比較的若いので、年齢層が高いTwitterではなく、モバゲーや携帯メールでの情報拡散が引き金となったと私は勝手に考えています(間違ってたらごめんなさい)。しかし私の知る限りこの事例の原因を真面目に調べた人はいません。

昨年の例を引かずとも、大正12年関東大震災で、根拠のないデマが広がり何の罪もない人達が虐殺されたという事件が起きたことを忘れてはいけないでしょう。地震のような災害発生時には、情報の充ち足りなさを何とかして埋めようとするために(時には善意で)情報を拡散しようとする力が働くのでしょう。当時は携帯もTwitterもありませんでした。当時よりもずっと(誤った)情報が伝わりやすい状況になっています。

ちなみに現在、Twitterの運営側が「RTは公式RTを利用するように」と盛んに呼び掛けているのは、誤報の伝搬を事前に察知し、そのような情報を一元的に管理してRTを一斉削除するか、あるいはそれに類することを念頭に置いていると思われます。

それほど情報の拡散は、とても危険な側面をもつものです。

現在、特に原発・余震に関して、人々は情報に飢えています。そうした状況で、善意に基づいて流れてきた「新たな情報」を再配信した場合、その背後に極めて伝播しやすいネットワークがあって、それを通じて情報が拡散してしまうということを常に念頭に置かなければいけません。

身近な人が誤った情報に流されることのないことを願って。