雪男は向こうからやって来た

雪男は向こうからやって来た

雪男は向こうからやって来た

「空白の五マイル」を楽しく読ませてもらったので、同じ著者の新著を思わず購入。紀伊国屋新宿店の新刊コーナーにどっさり積まれていました。先週の佐渡行きのザックの中に忍び込ませて行ったら、他のメンツに随分笑われた。そりゃそうか…。

「空白」の旅に出るにあたって、2008年朝日新聞を退社した際に、同新聞社が過去に後援したという縁から、雪男探索を行う「イエティ・プロジェクト」に著者が参加したというお話。プロジェクトの探索の詳細な報告に加えて、やはり今回も膨大な文献を引いて人間とイエティ(バンマンチェ)の遭遇の歴史を紐とき、さらに雪男に接近した数多くの著名な日本人登山家へのインタビューを物語の合間に差し込んでいる。

よくもまあ次から次へこれだけのネタを吸いつけるのは、相当なアンテナが張り巡らされているのか、はたまた相当な巡りあわせを持つ人なのか。およそ「朝日新聞」という響きからは想像もできないこのはみ出しっぷりは、一体何なんだろう。

雪男の存在は結局最後まで読み進めてもますます胡散臭いのだけど、調査対象となったダウラギリIV峰が余りに険しすぎて誰も近寄らない山域になったなど、単なる雪男の話に登山史をミックスさせて雪男の存在にリアリティを与えている。Amazonの分類では「超常現象・オカルト」なのだけれど、むしろ「登山読みもの」とかそんなラインかしら。

やはりすごいのが、小野田少尉ルバング島で「発見」した鈴木紀夫の雪男探索譚。「小野田少尉を発見した人」のその後の姿が、夫人へのインタビューも絡めて展開される。その彼が雪崩に巻き込まれ、その後の捜索活動から現在のイエティ・プロジェクトへ繋がり、第一線のアルピニストが参加する展開は、鈴木氏の情熱に感化された人達の気持ちを伝えていて面白い。

ただ2008年のイエティ・プロジェクトの調査を記述した流れは冗長な感が否めなくてやや退屈。逆にその冗長さのおかげで、そんな山奥に何度も往復した鈴木紀夫という人の特異さ(異常さ?)が際立ってくるのは著者の計算なのかどうか。うーんでもやっぱり引っ張りすぎな感じ。チームの行動を探検部っぽく面白おかしく書いている辺りは、当のプロジェクト参加者達はどう思っているのだろう。Amazonのレビューは「前著を越えられず」などとやや辛口なのだが、そういった点も大きいのかもしれない。

著者の引き出しにはまだ相当ネタのストックがあるのだろうけど、前著も含めて行動がちょっと激しすぎて、ほんとちゃんと生きて帰ってねという言葉を掛けたくなる。一般人が上から目線でごめんなさい。といいつつ次の本にも期待。