空白の五マイル

空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む

空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む

今年の岳人4月号に「ツアンポー峡谷脱出行」という題で公開された冒険記が本になるというので、会社帰りに買って週末の空いた時間ででも読もうかなと思ってたら一気に読んでしまった。

ツアンポー(ヤルツァンポ)峡谷は、ラサの遥か東方のチベット山中にある峡谷で、今から80年も前に探検がされた後、未踏部分が5マイル(8km)残り、その後主に政治的事情から誰も足を踏み込めず、ようやく20年ほど前から中国当局から許可が下りはじめ、続々と探検家が足を踏み入れたものの、未踏の「五マイル」は依然として未踏のまま残ったらしい。

著者の角幡唯介さんは早稲田の探検部出身、2002〜3年にかけてこの未踏部分を踏破し、滝と洞穴を新発見。そしてチベット動乱の緊張の冷めやらぬ昨年2009年には会社を辞めて、過去の探検家が辿ったのと同じルートを辿り、命からがら生還。この本はその2度の探検の報告と、過去の探検家達の活躍のサマリを書いたもの。

岳人にも掲載されたこの2009年の探検の記述が、やはりちょっと激しすぎる。青蔵鉄道で偽チケットを駆使してチベットに潜入するくだりもすごいのだけれど、携帯ですぐにでも通報されてしまうという焦りを抱えながら村々を移動し、ポーターの村人はすぐに帰ってしまい、峠越えの直前で大雪が降って長期間ビバーク、果ては食料が尽きて体中の脂肪分を使い果たすとか、もう色々あり得ない。しかもコースがいたるところヤブとぬかるみだらけ。ひたすらマゾな「脱出行」。

2008年のチベット騒乱以降、中国当局の外国人に対する姿勢の激変がこの旅の内容に大きく影響していて、検問を避けるためにルートを変えたり、村人が公安への密告を恐れたりして協力的ではなかったり、逆にラストは公安の車に乗せてもらったりとか、インド国境に近いこの土地の最新の雰囲気を伝えている本でもあったりします。果たしてどうしてそんな時期に行く必要があったのかと思ったりしますが、逆にそんな時期だからこそ自分が行かないとっていう元新聞記者ならではの感覚があったのかもしれない。

探検自体はすごいのだけれど、それでも、どうなんだろう。冷静に考えるとやっぱり「重箱の隅をつつく感」があるというか。ひたすらヤブ掻き分けて、何もないこの土地を前進する意味がどれだけあるだろう。正直、自分にはそこまで惹きつけられる何かがまだよくわからない。ごめんなさい。といいつつ、自分は去年四川省の奥の方で、外国人にバスのチケット売ってくれなかっただけでひよってた小心者。。正直その気持ちには共感できなくても、ここまでアクティブな人にひたすらに憧れます。はい。

他にも、日本ではついぞ聞いたこともないこの土地の歴史や、過去の探検家の活躍、早稲田のカヌークラブの事故やアメリカ・中国の「新発見」レースなど、沢山の文献資料や著者自身の取材を元に書かれた様々なトピックをどっさり含んでいて、とにかくすごい本。今後にも期待。