旅行人・休刊号

sed2011-12-11

紀伊国屋・新宿本店のB1Fでおもわず「え!」と声をあげてしまった。旅行雑誌の老舗「旅行人」が2012年上期号をもって休刊、地図・旅行書コーナーで特集が組まれていたのを見たからでした。

といっても、雑誌の方は一度も買ったことはなくて、もっぱらお世話になってきたのは単行本の「旅行人ノート」の方。「チベット」と「ラダック」には大変お世話になりました(書籍の出版はまだ続くらしい)。そのほか「海外現地情報板」とかも一時期よく見てたり、「旅行人」とは無縁ではなかったのだけれど、雑誌はそれこそ紀伊国屋本店とかにしか置いてなくて、しかも一体誰が買っていくのか皆目見当のつかないマイナーな土地をとことん極めるレベルの高い話題ばかり。以前から全く手が出ないでいました。そうこうしているうちの休刊のお知らせ。季節外れの「熊野古道ガイド」を買おうとしていたのですが、一緒に「休刊号」も買ってみました。

編集長・蔵前仁一さんによる休刊号のあとがきが面白い。同人誌としてスタートし、猿岩石ブームで追い風を受けて順風満帆と思いきや、SARSの影響をもろに受けて一気に規模を縮小、社員3人(!)での季刊体制に移る経緯が綴られている。その頃の決意について、

これからの本誌は、編集長である僕個人の好みで、僕が興味を持ち、やりたいものを特集することに決めていた。それで売れないのならしょうがない。売れなくても社員の給料を心配する必要はないので、気分はかなり楽である。とはいえ、まったく売れないとがっかりだ(p141)

そんなわけで「マイナーな話題を集中的にとことん掘り下げる」という方針に切り替わり、その方針でそれなりにうまくやってきたらしい。休刊する理由は、「自分で取材をして、自分で記事を作る体力が持たなくなってきたから」だそうで、ネット主流の時代にこの休刊理由はさすがと言わざるを得ない。「体力さえ持てば、まだまだネタは腐るほどあるぜ」と言われているようで、自分のような若輩者にはやはり敵わない雑誌な感じがする。うーん。

休刊号は、各方面の「旅行人」達の2〜3ページのエピソードのごった煮なのだけれど、それぞれの内容がとても濃い。戦場ジャーナリスト社会人類学者から、温泉エッセイストまで様々な顔ぶれ。椎名誠石川直樹小林紀晴といった面々も。紛争前のダルフールとか、トラと戦うマサイの戦士とか、「そうか!ホーミーはいかりや長介みたいにすればいいんだ!」とか。

世界は広い。まだ自分の知らないことだらけだ。

ちなみに紀伊国屋新宿本店B1Fではミニフェアみたくなっていて、書店の一区画に休刊号と一緒にバックナンバーも並んでました。「西ベンガル」「コーカサス」とか「そんな場所、ホントにいくのかよ?」と突っ込みたくなりつつも、そのマイナーさがすごくて思わず欲しくなる(けど結局買わない)不思議な雑誌。来年ぐらいにあっさり復活しそうな感じがする。